この記事について
"たいあたり"という技がある。
剣盾では威力40命中100のノーマル技。多くのポケモンが初期技(レベル1時点)として覚える、とてもベーシックな技。
ストーリーの序盤では、たいあたりを最初は使って強力なレベル技で上書きする、というのが一般的な流れである。
ただし一部のポケモンは、初期技ではなくわざわざレベルアップでたいあたりを習得する。一体どのようなポケモンなのだろうか?
本記事では、たいあたりをレベル技として覚えるポケモンについて、その変遷を初代から剣盾まで追った。
第1世代
コイキングのみが該当。
他のポケモンは全員たいあたりが初期技になっている。
ここで重要なのは、コイキングがたいあたりをレベル15で覚えること以上に、そもそもコイキングの初期技が「はねる」しか存在せず、初期技での攻撃はしない点である。
捕獲直後は本当に何もしない、相手のポケモンに攻撃も干渉もしない、という"非暴力"と言える状態にある。レベル15まで育てないとたいあたりを習得しないのだ。
これは低レベルあっても「相手にダメージを与える」ことが基本のゲームの中でははっきりと異質である。
他にもトランセル等初期技で攻撃できないポケモンは存在したが、「たいあたりをわざわざレベルで習得する、初期技では攻撃しない」コイキングは独自の個性を持っていた。
第2世代
ハネッコが参戦。初期技はこうごうせいとはねる、lv5でしっぽをふるを覚え、lv10でたいあたりを覚える。
他のポケモンは全員たいあたりが初期技になっている。
再び「はねる」が初期技。当時は「はねる」を初期技で覚えるポケモン自体コイキングとハネッコしかいない(タマゴ技を含めるとピッピやニョロモ等が該当)が、そのどちらもたいあたりをレベルで習得し、さらに初期技で攻撃しない仕様になっているのだ。
「はねる」だけでなく「たいあたりレベルで習得」「初期技では攻撃しない」という要素がコイキングからハネッコへと継承され、普遍性を持ち始めたのだ。
これ以降、「たいあたりレベル習得」は「非暴力」とともに歩むことになる。
ちなみにハネッコは初期技ではねるに加えて「こうごうせい」も習得。
相手にダメージを与えることはできないが、相手からのダメージに抗うことはできる。これは非暴力だけでなく不服従も意味する。
第3世代
ヒンバスが参戦。
デザイン然り種族値の設定といい、ヒンバスはコイキングを意識して(進化先のミロカロスもギャラドスを意識して)いると思われる。
初期技とレベル習得技もコイキングと一致しており、ハネッコ以上にコイキングの正当な後継者と言える(筆者はハネッコのファンだが、魚の正当な後継者が魚ではなく植物だと主張できるような厚かましさは持ち合わせていない)。
そしてイレギュラーな存在としてキノココが参戦。
キノココはたいあたりがレベル習得にもかかわらず、初期技で攻撃技(すいとる)を覚える初めてのポケモンとなった。
ただ注意したいのは、たいあたりの習得レベルが5であること。当時はタマゴのレベルが5でキノココは野生でもレベル5以上の個体しか出現しなかったので、キノココのたいあたりは半ば初期技扱いだった。
ここまででたいあたりレベル習得界隈はコイキング、ハネッコ、ヒンバス、キノココの4体が該当。
第4世代
ハネッコのこうごうせいが初期技ではなくなり、はねるのみになる。
またタマゴポケモンの初期レベルが5から1になり、キノココのたいあたりが完全に初期技扱いではなくなった。
そして新顔としてミノムッチが参戦。
これまでのコイキング・ハネッコ・ヒンバスのはねる系非暴力とは異なり、初期技に「まもる」のみが採用されている。たいあたりの習得レベルは10。
まもるは相手に干渉せず自分へのダメージもカットする、まさに非暴力・不服従の初期技である。個人的にはコイキング並の非暴力性を感じるのだが、ミノムッチの正当な後継者(初期技まもる→レベルたいあたり)はまだ現れていない。
加えてついに、「新世代で初めてたいあたりレベル習得になった旧世代のポケモン」が初めて登場。
ビリリダマである。
第3世代では初期技にじゅうでんとたいあたりを持っていたが、第4世代でなぜかたいあたりがレベル5習得に変更。初期技がじゅうでんのみになってしまった。
一見非暴力とは縁遠そうなビリリダマが、世代を経て仲間入りを果たしたのだ。
個性的な2者の存在は、たいあたりレベル習得界隈に新たな風をもたらした。
ここまででコイキング、ハネッコ、ヒンバス、キノココ、ミノムッチ、ビリリダマの6体が該当。うち初期技で攻撃ができるのはキノココのみ。
6体揃ったので構築が組める。
第5世代~第6世代XY
この間は変化なし。たいあたりレベル習得界隈に安定期が訪れる。
第6世代ORAS
一部のポケモンの技習得レベルがXYから変更。
これに伴い、ビリリダマとキノココのたいあたりが初期技に変更された。
ビリリダマは当初はたいあたりが初期技だった、キノココは初期技で攻撃できた、とややイレギュラーな立ち位置にいたが、彼らがたいあたりレベル習得界隈から外れることになった。
これにより、コイキング、ハネッコ、ヒンバス、ミノムッチの4体のみが該当。「たいあたりレベル習得=初期技で攻撃しない」を登場直後からずっと実践している伝統的なポケモンのみで固まることになった。
第7世代SM
変化なし。第2次安定期が訪れる。
第7世代USM
メンバーに変更は無し。ただし、
ハネッコが初期技としてすいとるを習得。
ORASで完全に固まったと思われた「たいあたりレベル習得=初期技で攻撃しない」という非暴力の図式から自ら降りるポケモンが出てきたのだ。大事件である。
たいあたりは依然レベル8で習得なので、たいあたりレベル習得界隈から出て行ったわけでもない。
想像してほしい。
いままでずっとレベル1同士なかよくはねたりまもったりしていたポケモンのうち1匹が突然、他のポケモンの体力をすいとり始めるのだ。
たべのこしを持ったミノムッチならまだ対応できるが、コイキングとヒンバスはタイプ一致弱点まで突かれるためひとたまりもない(乱数2発)。
ハネッコ側の動機としては、初期技に攻撃技を加えることでプレイヤーに旅パで使われやすくなる、という点が考えられるが、アローラに野生のハネッコは存在しない。
たいあたりレベル習得界隈への裏切りともいえるリスクをとってまで当時欲しかったリターンかと言われると微妙だが、どうあれハネッコはそれを実行したのだ。
ここまででコイキング、ハネッコ、ヒンバス、ミノムッチの4体が該当。非暴力の原則がほころびを見せ始める...
第8世代
激動の世代。
まず、ハネッコがガラルに入国叶わず(2021年7月時点)。
次に、ミノムッチもガラル入国叶わず(同上)。
コイキングとヒンバスは初期組としてガラル入国達成。
そして...
ホーホーが参戦! 初期技はなきごえ・つつく! たいあたりの習得レベルは3!
バスラオ(青・赤)が参戦! 初期技はしっぽをふる・みずでっぽう! たいあたりの習得レベルは4!
ホルビーが参戦! 初期技はにらみつける・どろかけ! たいあたりの習得レベルは3!
クレッフィが参戦! 初期技はフェアリーロック・おどろかす! たいあたりの習得レベルは4!
デデンネが参戦! 初期技はしっぽをふる・ほっぺすりすり! たいあたりの習得レベルは5!
カチコールが参戦! 初期技はかたくなる・こうそくスピン! たいあたりの習得レベルは3!
「たいあたりレベル習得=初期技で攻撃しない」という非暴力の図式は、完全に崩れ去った。
まとめ
SMまでは限られたポケモンの特権であり非暴力の証であった「たいあたりレベル習得」は、剣盾で一気に一般的で普通な存在になった。
今後ガラルに入国するポケモンの中にも、新しくたいあたりをレベル習得するポケモンが出て来るかもしれない。
おそらくはゲームバランスの都合上(特にホーホー)"たいあたり=初期技"にこだわる必要はなく、プレイヤーが旅パを快適に組むことを最優先とした結果の変更である。
そしてその先駆けになったのが、USMでのハネッコのすいとる習得だったのだ。
今のたいあたりレベル習得勢で、剣盾で非暴力を忠実に守っているのは始祖コイキングと直系の後継者ヒンバスのみ。
非暴力は「たいあたりレベル習得」ではなく「コイキング系」の個性という形に戻ってしまった。
こうなっては、「たいあたりレベル習得」というカテゴリ分け自体にあまり意味がない。実際、気に留める人ももうあまりいないのかもしれない。
だが、
「たいあたりレベル習得」はかつて「初期技で攻撃しない」という非暴力の証であったこと、
コイキング・ハネッコ・ヒンバス・ミノムッチという4体によって忠実に守られていたこと、
これを切り崩して剣盾以降の流れを作ったのはハネッコであったこと、
この3つはこの記事に記録しておきたい。